2007.01.21
森 紘一
イナバウアー

夢舞台の住人」を読んでいると、”賢太郎さんのUターンは何かに似ているな”とフト思うことがある。
冬に閉ざされた今の暮らしからは、都会の快適な日常は望めないし、作品つくりもはかどらない、とそんな嘆きも聞こえてくる。しかし、豊実の小さな集落で大きな自然に囲まれながら、ゆったりと外に見張られたまなざしは冴えわたっているようだ。
時間と効率に追われる競争社会を離れて、稼ぎにもならない夢舞台つくりに励み、地域の活性化や農業・教育といったテーマと取り組む賢太郎さんの心意気には、縄文人のDNAが宿っているかのようだ。

ところで、トリノオリンピックの金メダリスト荒川静香さんの「イナバウァー」は有名だが、あれは得点の選考対象外の演技であったということはあまり知られてないようだ。ポイントにもならない演技を何故取り入れたのだろう?
コーチと本人の決断と努力が実って聴衆を魅了した背景には、勝ち負けを超えた特異な表現能力とでも呼ぶような情熱がみなぎっていたようだ。

荒川静香さんと賢太郎さんは較べるべくもないが、「コスモ夢舞台」は賢太郎さんの骨太な「イナバウァー」ともいえるのではないだろうか。
豊実を訪れる人々がふえ続け、驚嘆の輪が広がっていくことは、地元の人々と我々にとっても、喜びであり大きな誇りでもある