2020.3.31
コロナウイルスと国際アートフェスタ
森紘一

 3月28日(土)、肌寒い曇り空の朝だった。この週末は関東首都圏には外出を控えるようにと各首長から要請がでている。
 人影もまばらなJR新白岡駅で大塚さんと待ち合わせ、駅前から隆雄さんにピックアップしてもらい、久喜から東北道に入った。高速道路も極めてスムースな流れで、いつもの長閑な春先の風景が広がっていく。淡いピンク色の山桜も随所に眺められ、格好のお花見ドライブとなった。

 しかし、素直に「きれいだなぁ」という言葉が出てこない。すぐに漠とした不安と閉塞感に気持ちが沈んでしまう。ワクチンも治療薬もないままに、我われはいつまで災禍の通り過ぎるのを待ち続けなければならないのだろう。全世界で感染者は70万人を超えたというが、人間の英知はコロナウイルスに負けてしまうのだろうか。

 その後、郡山からの磐越道も順調で午後2時前には豊実に着いた。こちらは雨の気配はない。マスクをかけた我われを見て、「ここにウイルスはいないよ」と佐藤さんとマキ子さんに一笑されてしまった。先着組の時崎さん夫妻、大野さん、小宮さんとも久しぶりに笑顔を交換した。

 今回我われは味噌つくりに集合したのだが、興味の対象はアートフェスタの会場である。佐藤さんの案内で辿り着いた会場は、昨年秋、里山アート展の時に下見した場所とは思えないほど変貌していた。
 小高い田んぼの背面にある林の斜面の奥に、かつて田んぼがあったという。「こんなところに田んぼが?」という荒地は朴木坂(ほうのきざか)という地名が残っていた。

 倒木や枯れ木の散乱していた急斜面は整備され、誘導するロープも張られて山道がつくられていた。山からの湧き水を引き込む戸板や塩ビのパイプ管、太いゴムホースが斜面を這い、棚田のような田んぼ五面につながっている。新緑には程遠いうっそうとした枯れ木の向こうはうっすらと空が抜けている。辺りを見回すと、そのところどころに色とりどりのオブジェや絵画が点在している。この空間全体のレイアウトは、まだまだ未完成なのだろうが、やさしく温かい大人のメルヘンに溢れている。

 ここにいると「なぜかホットする安堵感」は、自然の摂理に従い、創意と工夫でたくましく生きる人間本来の姿を呼び覚ますことにつながるからかもしれない。
 地球規模の危機に瀕した2020年、日本の小さな寒村で開かれる第2回奥阿賀・国際アートフェスタの意味は、アートによる過疎の活性化を育むレベルをはるかに超えて楽しみである。