2009.12.

2012.08.31
「鳥獣戯画」を読む
森 紘一

 SL磐越西線がかん高い汽笛を鳴らし、もくもくと煙を吐きながら週末の土日になると、日に二度ほど走りゆく。懐かしい田園風景が滔々と流れる阿賀野川沿いに広がる。福島県側の西会津に近いJR豊実駅前の国道459号線は、いっときカメラを手にした愛好家、追っかけのバイクとクルマで混み合うことになる。

 あざやかな朱色の船渡大橋の手前、ちょうどSLが走りぬける線路側と川に挟まれた田んぼ一帯がコスモ夢舞台のホームグランドである。秋口にかけて、稲刈りの済んだ田んぼは里山アート展の会場となり、田んぼ夢舞台祭りのステージとなる。その奥手に完成をめざす田んぼ夢舞台公園がある。

 佐藤さんはHP上で、「今の時代に何をめざして人間は生きていくべきか、それを田んぼ夢舞台公園で示唆できるものにしたい」と述べている。無農薬の米づくりに精を出す一方、景観や環境保全の努力で、今や田んぼ周辺はイナゴやメダカ、ドジョウ、トンボ、蛙の棲みかとなってきた。

また、アート展の鑑賞、自然の生態系の観察学習などを気軽に周遊しながら楽しめるように、田んぼ周辺の畦道は、ほぼすべて石畳が敷きつめられている。4年前から始まったビオトープづくり、田んぼ祭りは地元の皆さんとの共同作業による成果である。

田んぼ夢舞台公園のゲートには今、二本の大きな石柱が運び込まれている。『未来の門』と名付けられたその先に、佐藤さんは鳥獣戯画の作品を設置するつもりだという。

佐藤さんは作品『鳥獣戯画』に何を託し、その先にどんな夢を描いているのだろうか。

鳥獣戯画といえば、京都の栂尾山高山寺の国宝「鳥獣人物戯画」が有名だが、制作は古く平安末期から鎌倉時代とされる。その自由闊達な筆運びや表現、物語性から絵としては現代の漫画の祖、絵巻としてはアニメの祖とも言われている。

佐藤さんの作品『鳥獣戯画』には当然、我われの関心と期待も集まる。同時に、その意図とメッセージを我われも共有し広報していく義務がある、とわたしは思う。

5月中旬、佐藤さんはEU・ジャパンフェスト日本委員会のご案内でフランス人アーティストと青森県の田舎館村を視察され、帰りにコスモ夢舞台にもお寄りいただいた。ご記憶の方も多いと思うが、その田舎館村が「田んぼアート 実る20年」という見出しで8月14日の朝日新聞夕刊のトップページを飾った。

行政の不断の努力と大規模なボランティアの協力で、観光客を集め、農業への関心を高める効果があったことは間違いないであろう。

コスモ夢舞台は、較べるべくもなく小規模で同じ土俵にいるわけではないが、アートを軸に個人や地域社会を元気にできないだろうかという意欲においては同質である。

 さらにコスモ夢舞台は、田んぼ夢舞台公園化事業を進めていく中で新たな一歩を踏み出したという実感がある。その象徴が佐藤さんの考えている作品「鳥獣戯画」ではないだろうか。

 また公園には、永久設置のアート作品以外にアスレチック遊戯やシーソー、ブランコなどの児童遊具も設置される。そこには、頭のやわらかい子どもたちに、自然と親しみ感性を磨く機会をより多く持ってもらいたいという願いがこもっている。

 我われは日々の暮らしでも、あらゆる意味で点数競争や効率で縛られ、ストレスを募らせている。

「もっと右脳を働かせろ」とは、よくいわれる苦言だが、具体的な処方箋が見えない。これからは計数ではなく質を考える、そんな生活習慣を身につけていきたいものである。その意味でも、田んぼ夢舞台公園は格好のフィールドとなりそうである。