2009.12.

2015.11.23
夢の対談
森 紘一

 今年のノーベル医学・生理学賞に決まった大村智(さとし)先生は、山梨県韮崎市のご出身だそうです。郷里に戻られた際、地元の子どもたちに向けて、こんなメッセージを送っています。

「これからの人生に向けて、つらい時、悲しい時があると思う。つらい時には我慢すること。いろんな人との付き合いが大事。出会いを大事にする人が世の中に役立つ仕事が出来る」。朝日新聞(10/17付)の夕刊に、こんな記事が載っていました。示唆に富んだ簡潔な言葉だとおもい、メモ帳に挟んでおきました。 

 大村先生の郷里には三つの異なる建物があるそうです。一つは「韮崎大村美術館」。その隣は、武田乃郷「白山温泉」。敷地内にはさらに、そば処の「上小路(かみこうじ)」が並んでいます。これらはすべて大村先生が自費を投じてつくられたそうです。

 大村先生の受賞に沸く地元は、今や観光名所となり、以前にもまして見物客で賑わっているようです。

豊かな自然を背景にアートを鑑賞する建物や食と健康の施設が立ち並ぶ光景は、どこか我われの見慣れた風景と重なります。 

 スケールは違いますが、コスモ夢舞台を主宰する佐藤賢太郎さんも、郷里(新潟県阿賀町豊実)に「ふくろう会館&ギャラリー」(美術館)をつくりました。阿賀野川沿いに「悠々亭」や「滔々亭」という東屋も建てました。厨房を奥さんに任せる「和彩館」は、手打ちそばや重ね煮が評判の食事処です。さらに、温泉ではありませんが、山から清水をひいて薪で焚く「桃源の湯」をつくりました。これらはすべて、あるものを生かして仲間とリフォームした手づくりの建物です。

 稲刈りの済んだ田んぼに作品を並べる「里山アート展」は開催12回目となり、いつもは静かな過疎の集落が都会の人びとで賑わいます。

 関東首都圏の中・高校生の体験学習を受け入れている佐藤さんは、素朴な日常の礼儀作法を教え、本物と向き合うこと、友達をつくること、夢をもつことの大切さを語ります。彼らは、田んぼの草刈りや杉林の枯れ枝を集め、薪割りや風呂焚きに汗を流し、阿賀野川の支流で川遊びを楽しみます。二泊三日程度の束の間ですが、子どもたちは次第に、明るい笑顔を見せてくれるようになります。

 都会の暮らしとはかけ離れた大きな自然とアートに囲まれた豊実は、彼らにとっても心地よい空間になっていくようです。 

 大村先生の韮崎は、はるかに大きな地方都市ですが、そこで語る子どもたちへの熱い思いは、過疎の集落である豊実の佐藤さんに共通する次世代への祈りではないでしょうか。いつの日か、お二人が対談をされるようなことがあれば、きっと意気投合されて、未来を拓く夢の対談となるに違いありません。

 本気で地方創生を唱えるなら、そのくらいのソフトを行政の側にも用意してもらいたいものです。