2013.07.16
ギャラリートーク
森 紘一

 7月14日(日)午後3時、日本橋髙島屋6階『佐藤賢太郎個展』の会場は50人を超す人垣でいっぱいになった。進行役栗原 勝さんの「それでは、これからギャラリートークをはじめます」のご案内で、会場は静かになっていった。 

美術評論家の藤島俊會先生と佐藤さんが会場内の作品を巡りながら、作品の制作意図やその背景を解説し、語り合うという対話形式は‘わかりやすくて楽しい、授業風景’そのものだった。 

【時の流れ】と題された鳥獣戯画像の前では、「私の人生そのものです」と佐藤さんはユーモアたっぷりに語る。すると次第に、ウサギや猿や狐の、それぞれのしぐさや表情が佐藤さんに見えてくるから不思議だ。 

京都栂尾高山寺の国宝『鳥獣人物戯画』は、その精緻な描写と物語性から日本の漫画やアニメの原点と言われているが、佐藤さんの鳥獣戯画の迫力もまた、堂々たる人生模様に他ならない。佐藤さんの作品を飾る空間は、はたしてどこになるのだろう?  

今回は、お馴染の小動物以外に、伊達(だて)(かんむり)という石の特質を生かした抽象作品も多く展示されていた。佐藤さんは、自分の意志ではなく、石につくらされていると表現されていた。その点を藤島先生は、造形美を追求する佐藤さんの新天地と評価されていた。

また、3年前にガンを告知されてからの心境と実生活の変化を作品化したシリーズも異彩を放っていた。藤島先生は、類を見ない“石で綴った絵日記”と感想を述べていた。 

ふと、会場内で熱心にメモをとりながら聞き入っている若い女性に気付いた。やはり、新潟大学のWホームの岡部さんだった。

そういえばこの春、豊実の体験学習で和彩館に投宿したという三鷹の女子中学生のグループも会場を賑わしていた。若い世代や次世代の皆さんにも足を運んでいただいたということは、実に貴重な収穫である。夢がさらにその先に繋がっていくような、そんな喜びを我われも共有させていただいた。 

“来たバスに乗れ”佐藤さんの信念は、確実に浸透しはじめている。