2016.07.18
個展会場のGトーク
森紘一

  7月16日(土)の昼下がり、日本橋髙島屋6階の美術画廊中央のブースには徐々に人だまりの輪が広がってきた。午後2時から、佐藤賢太郎個展会場に中繁芳久氏をお招きして、ギャラリートークが開催される。

 会場は、入って右手におなじみのフクロウを中心にした小動物が並び、正面手前の柱の脇に『縄文の石臼』、正面の右コーナーに大きなテーブル石の作品『吾、唯足るを知る』と3点のお地蔵さん、そして父母への思い出とギリシャ、モロッコの関連作品と続き、左手に今回の新作と目玉でもある企画作品のシリーズが展示されている。

美術画廊の方々に、手際よく運び込まれた椅子席は埋められ、その周りを立ち見の方がとり囲むような形で、ギャラリートークは開始された。

 進行役の大塚さんに紹介されると、佐藤さんは即、左回りに作品の解説を始めて行った。ともかく中繁さんとのコラボトークを、一時間という制限内で実行するために佐藤さんの口調はいつもより早い。

  いよいよ企画作品のコーナーに入り、中繁さんの登場となった。それぞれの作品は、本人の生年月日から「ね」番号が割り出され、彩音表(あやねひょう;中繁さんのオリジナル)からキーワードが選ばれる。そのキーワードを佐藤さんが作品として具象化し、会場に展示してある。事前に、佐藤さんと中繁さんの間に折衝はない。

中繁さんは、初めてその作品を見ながら、一人ひとりの役割と使命を解き明かしていくという趣向である。

  最初にIさんファミリーが紹介され、それぞれの作品を手に解説を聞きながら、笑顔で仲良く親子4人が拍手に包まれていた。軽妙な中繁さんの語り口は、聞いているだけでも楽しい。

 その後、田舎暮らしを始めたというFさん、ご自宅を改装してカフェをはじめたパテシエのMさん、写真家のSさん、遠路新潟から駆けつけたKさん、郡山から上京のOさんと、都合9名の方々の作品が紹介され、それぞれの方々の生き方に明るい光が当てられていった。作品を手にした皆さんの表情は明るく、さわやかだった。(ちなみに、中繁芳久さんは「あなたが生まれてきた本当の理由」(評言社刊)の著者である。)

結局、時間切れで紹介されなかった作品も多かった。臨機応変な対応がなされなかったことは残念である。

  今回のギャラリートークは、実にユニークな企画で会場も盛り上がっていた。石彫作家の作品がこんな形でコレクターの手にわたり、喜ばれるというケースはあまり聞かない。中繁さんの解説も効果的で、作家の創造性がより際立ったように思う。

これを機会に、ただ客を待つだけでなく、いわばオートクチュールをとるような工夫を画廊側も考えてみてはどうだろう。