2007.7.28
体験学習参加日記
森 紘一

7月25日(水)晴れのち曇り、夕方から雨
  東京のE中学校の男子生徒4名が和彩館に現れたのは午後4時近かった。マキ子さんに連れられた彼らはやや緊張気味で、それぞれのネームが入った白いTシャツとブルーのトレーニングパンツ姿はどこかあどけなかった。
「顔を合わせたら、村の人にもきちんと挨拶をすること」、「呼ばれたら、声を出してはっきり返事をすること」。迎え入れた賢太郎さんの話はシンプルだった。

普段、学校や家庭ではできない体験をしてもらうということで、さっそく阿賀野川沿いの「水鏡の小径」の杉林の間伐作業から授業開始となった。賢太郎さんのチェンソーが鳴り響く中、手にしたノコギリやナタで細木を挽き小枝を掃う彼らは悪戦苦闘、汗まみれの初体験となった。何で、こんなに苦労して伐採しなければいけないのか、その理由をどこまで身体で理解できただろうか。

生徒の身振り手振りを眺めていたふたりの村人がニコニコ顔で実技指導(?)に加わった。「こんにちは」と声は出したが、生徒たちは困惑顔で、「ありがとうございます」まで続かなかった。

「桃源の湯」で汗を流した彼らと円卓を囲んで夕食となった。部活やクラブで野球をやっているというA君、K君、S君、卓球のO君と全員がスポーツ少年だった。若さの特権か体力の回復も早く、食欲も比較的旺盛だ。マキ子さんも一安心の様子だった。        

食べ物の好き嫌いが激しい年代で、マキ子さんはいつも生徒の受け入れでは苦労されているようだ。「何でも好き嫌いなく食べないとダメですよ」とはいっても、やはりこれは本人と家庭で解決してもらう他ない。学校や体験学習以前の問題というべきだろう。

7月26日(木)雨のち曇り、時々晴れ
   6時半集合に遅れはしなかったが、4人揃って寝不足顔で元気がない。心配したマキ子さんが質問したところ、「昨夜、おじさんに怒鳴られたんですが、大騒ぎしていたわけではなく、みんなで蚊を退治していたんです」と答えが返ってきたという。蚊取り線香やベープを用意していたマキ子さんにしてみれば、「何で使わなかったの?」の後は「ご免ね、おばさんがひと言云っておけばよかったね」ということになってしまう。素直というには幼すぎる生真面目さは、都会育ちのひ弱さだろうか。逞しく育ってほしいものである。
   K君とO君は風呂掃除、A君とS君には縄文館の床の拭き掃除が朝飯前のひと仕事として待っていた。

今回の体験学習でははじめて、他のイベントへの参加行事があった。阿賀町の福祉協議会主催の「バーベキュー会」から声がかかったのだ。年に一回、近辺集落のお年寄りたちの親睦会があり、そこに、お孫ちゃん役の4人が親善交流したというわけだ。昼下がりの豊実駅前の公民館は、総勢36名の熱気に包まれて賑やかだった。

地元の長老たちと小雨の駅前広場の東屋の下で、炭の火おこしから焼きものまで熱心に下準備に協力してくれた彼らだが、おばあちゃん連中に圧倒されてか会場ではおとなしかった。とはいえ、心地よい疲労感とともに「ありがとうね!」「またおいで!」は忘れられない言葉として彼らの胸に強く響いたことだろう。
  雨上がりの午後からは、昨日の杉林の片付け作業の力仕事が続いた。マキ小屋に山と積まれた丸太を運び出す作業は、かなりハードだったようだ。さらに草刈を体験したが彼らはへっぴり腰で土手の雑草刈りに汗をながしながら、青大将やアオガエルとの出遭いに嬌声を上げていた。

7月25日(金)晴れ
   早朝6時半、最終課目のマキ割りがはじまった。4人とも初挑戦だった。縄文館横に並べられた丸太は栗の木で、どれも手強い相手だった。はなからマサカリでは歯が立たず、鉄のクサビとハンマーで徐々に割っていくことになった。どんな裂け目にクサビを打ち込めばいいのか、足の位置と腰の構え、ハンマーの握り方と振り上げ方、振り下ろすタイミング、どれも実際にやってみて身体で覚えるほかない、まさに体験学習だった。

時間をかけて一本ずつ割れるたびに、ヘトヘトになりながらもコツが飲み込めていく様子が見てとれる。力任せだったO君も次第に肩の力が抜け、ハンマーをクサビに当てるだけだったA君の振りも大きくなってきた。左利きのK君もようやくタイミングが合いだし、細身のS君も腰がふらつかなくなってきた。

1時間、手には豆をつくりながら歯をくいしばって流した汗から、多分彼らは何かをつかんでくれたはずだ。賢太郎さんの叱責も、最後の方では「よし、もうちょっとだ。頑張れ!」と明るい励ましに変わっていた。

  8時半頃、和彩館の前で記念写真を撮り、彼らはマキ子さんのクルマに乗り込んで集合場所へと去っていった。来た時よりはひとまわり大きく見えたA君、K君、S君、O君の手を振った笑顔が、重圧から開放された喜びだけではないことを願っている。(終)