2007.12.23
コスモ夢舞台の所在
森紘一

 SLの走るJR磐越西線の(とよ)()駅は西会津に近い新潟県東蒲原郡阿賀町にある。残念ながらSLは停車しない豊実駅前の国道459号線を津川方面に5分ほど歩くと、赤い大きな船渡大橋に出会う。その手前左手のゆるやかなカーブに、むかいの荒山と阿賀野川を背に抜き文字で「桃源郷」と書かれた幅2間半はある朱塗りの木製ボードが目につく。 高名な書家の作品のようでもあり、この一帯をPRする立て看板のようにもみえる。

石彫作家の佐藤賢太郎さん(58歳)は、高校時代を豊実駅から喜多方に通い続け、芝浦工大を卒業後、9年間、埼玉県で教員生活を経験した。しかし、ある時、山道で出会った石仏の魅力が忘れ難く、鈴木政夫先生に師事。その後、ほぼ独力で彫刻家へと転身した。

 教員時代の同僚や教え子を中心とした応援部隊をふくろう会という。「佐藤賢太郎とふくろう会」はその後会員もふえ、11年の歳月をかけて仲間たちと手づくりで、生家の古い納戸や物置小屋、土蔵を東屋や食堂兼宿泊所、ギャラリーに改造してきた。4年前からは、休耕田を利用した里山アート展や「和彩館」とよぶ食事処でシンポジウムも開催している。昨年、山にはアトリエ「石夢工房」と「桃源の湯」(風呂場)も完成した。

 仲間たちは、こうした建物群の連なる佐藤賢太郎さんの母屋周辺を「コスモ夢舞台」と名付けて、日本のふるさと原風景つくりや、都市との交流、国際交流会やコンサートなど、さまざまなイベントを展開している。いまでは、コスモ夢舞台実行委員会が主催する一連の活動は、新潟県文化振興財団に認められ助成事業となっている。さらに今年は、第4回の里山アート展が19年度の芸術文化振興財団の助成事業として認可された。

 昨年秋、埼玉県の蓮田市から郷里の豊実に居住を移した佐藤さんご夫妻は、地域社会の活性化にも積極的に取り組みはじめたところである。

 「佐藤賢太郎とふくろう会」には、若干の規約はあるが難しい会則はない。一人ひとりの生き方の原点として、佐藤賢太郎さんに共鳴する三つの合言葉がある。“感動ある人間交流をめざして”“一人ひとりが夢を輝かせ”“いつも本物と向き合う”

 大きな自然の中で農業を体験し、収穫を味わう。我われ素人でも参加できるアートとハートのある暮らしの中で制作や鑑賞を楽しみ、あるものを活かして総合的な応用変換力を身につけていく。それは、人間力を養うということに他ならない。それが、今の教育現場で一番必要とされていることであり、まさにNPOにいがた奥阿賀ネットワークとの連携による農家民宿の体験学習も生まれ、都会の中・高校生との交流も進められている。地元はもとより県内外の多くの人々や外国の方々との交流をめざして、「コスモ夢舞台2008」は、目下多彩なイベントを立案検討中である。

  豊実はコスモ夢舞台のフィールドであり、ひとつの道場である。現代の桃源郷は、一人ひとりの生き方の問題としてこころのふるさとにある。コスモ夢舞台の所在は、つまり我われ一人ひとりの胸の内にある。来年も、ぜひ多くの人々とコスモ夢舞台ヴィレッジでの出会いを通じて、明るい年にしていきたいものですね。(終)