2010.08.13
石舞台つくり体験記
坂内克裕

 8月6日の朝約束の8時5分前に、私は豊実に着いた。和彩館は無人だったので母屋に行くと大野さんが既に到着しており、目の前のテーブルに置かれたコップは飲み干されていた。奥さんが私にも同じコップの飲み物を出してくださった。飲んでみると冷たいドクダミ茶だった。我が家でも昔は自家用に作って煎じて飲んでいたので懐かしくいただいた。研修に来た子供たちに刈り取り乾燥作業をしてもらったそうである。

大野さんは今朝、那須から軽トラックを飛ばして来たという。2時間で到着したとのことだったので、ここのところ草刈りで4時半に起床している私と起きたのは同じ頃かなと思った。大野さんとは3月の味噌つくりイベントのときに、雪でつぶれた味噌小屋の改修作業をお手伝いし、遅くまで一緒に酒を飲んだあげく枕を並べて寝たので、親しくお話しができた。

佐藤さんは今、作業で使うユニック車を借りに行っているという。佐藤さんの帰りを待ってると時間が無駄なので、茶を飲み干して大野さんと直ぐに現場へ向かった。

外に出るとまた汗がどっと出た。昨日の喜多方市は最高気温36.3℃だったが、奥さんによると豊実は37℃だったらしい。今日も厳しい暑さが予想された。

石舞台とは、「田んぼ夢舞台祭り」のときに、歌ったり踊ったりする場所になるものである。祭りはこれまで未舗装だった田んぼ道で行われていたが、この道はビオトープへの通り道でもあるので、革靴でも行けるように石を敷き詰めることとし、特に舞台となる場所には踊りやすいように巨大な石を敷くというものである。

   この田んぼは同時に「里山アート展」の会場にもなるので、石彫家佐藤賢太郎としては、この石舞台を一つの芸術作品として大野さんとの共作にしたいということで、ついては一日だけでいいから作業の手伝いに来てくれないかと8月1日に佐藤さんから電話をいただいていたのである。

現場はすでに砕石を敷いて整地がなされていた。本日の作業は、道路より高いほうの田んぼの土手に、長い石の板を張って土砂崩れや雑草の防止とともに芸術作品としての舞台の見栄えの良さを確保するというものである。

 スコップで石材を張る部分の土手を削ったり下を5センチほど掘ったりして準備をしていると、まもなく佐藤さんがレンタルのユニック車を運転して到着した。私は言われるままこの車に乗りこんで、佐藤さんとともに石材を取りに石夢工房に向かった。

「コスモ夢舞台」の凄いところは、まったく未経験の者にでも簡単な説明でいきなり難しい作業をやらせてしまうことにあるが、この日私もユニック車のテコを初めて経験した。

石材をトラックに積み込むときは、佐藤さんがフォークリフトで運んだので、私はトラックの荷台に枕木を並べるだけで済んだが、いざ現場に来ると、佐藤さんはユニック車の操作、大野さんは敷設場所の調整となると、残りの私がトラックの荷台に乗って石にワイヤーロープを掛け、その一方の端をクレーンに引っ掛けて、つりあがったら石材がトラックにぶつかったりしないよう手を掛けたり、おろすとき狙った位置に収まるよう石材の方向を手で微調整したりする役目となった。

   ワイヤーロープを石に掛けるといっても、幅約40センチ長さ約2メートルほどの細長くて厚さが両端で異なる石板の重心は一目では分かりにくく、つりあげたのを一旦おろして掛け直すことも何度かあった。さらにつりあがった石材は振り子の要領で揺れるので、トラックとの間に身体を挟まれないように注意しなければならない。

   早くも一本目から暑さのほか冷や汗も混じってたちまち汗だくになってしまった。おろした石材は三人がかりで押したり引いたりバールを使って浮かせたりして位置を調整し、最後にさきに掘った土を戻して一丁上がりとなる。これを繰り返していくが、暑さと緊張で汗は滝のように流れ意識は次第に朦朧となっていく。

そんなとき奥さんが10時のおやつにアイスを持って来て下さった。上がソフトクリームで下がカキ氷のカップアイス。これで生き返ってまた仕事ができた。それでも、ますます照りつける太陽には勝てず、11時15分ころ午前の部は早仕舞いとなった。

私は泥と汗でぐしょぐしょになった作業着を着替えて生きた心地を取り戻し、昼食後は滔滔亭に行って、椅子を4個並べた上に30分ほど横になって目を瞑った。開け放った窓から川風が吹き抜け心地良い。しばらくして自分のいびきで目が覚め腕時計を見ると10分ほど熟睡できたらしい。これが午後の活力を生む。

1時に和彩館に戻ってみると、佐藤さんはこれから来客2名を案内して各施設を回ってくるとのことで、作業はその後に開始することとなった。「できるだけゆーっくり回って来て下さい。」とおどけて送り出し、大野さんと奥さんと三人で雑談しながら待った。

   私が、「こんな暑い日、私たち百姓は草刈りするにも、朝5時から9時と夕方4時から7時というようにして、一番暑い日中は家で昼寝している。」と言うと、大野さんは「我々左官は、そんな訳にはいかない。施主様の家で迷惑はかけられないので、天候に関わり無く朝8時開始夕方5時終了を厳守する。中休みするとかえってやる気が無くなってしまう。」と言う。

午後は2時過ぎ作業開始となったが、外に出ると先ほどまで照り付けていた太陽が雲に隠れており、30分後にはにわか雨になった。カミナリも鳴らずやさしい降りだったので作業は続行。ずぶ濡れにはなったが暑さは和らぎ助けられた。

それでも雨が止むと暑さがぶり返しまた朦朧としてきた。そのタイミングを計ったように、奥さんが今度はおやつに桃を持って来て下さった。それと長生き清水。さっそく桃のあかつきを丸かじり。甘さに救われる。そして初めて飲む長生き清水。冷たさが五臓六腑にしみわたり、おもわず立て続けに3杯もお代わりしていた。

一旦家に戻った奥さんが5時ころに再び現場に見えた。聞けば、隣村の日出谷でお年寄りが畑で熱中症のため亡くなったとのことで、大野さんの身体を心配して駆けつけたとのことであった。当の大野さんは大丈夫と答えていたが、5時も過ぎたし今日の作業目標も達成できていたので、作業終了とすることになった。
   後片付けして6時ころ和彩館に帰着。奥さんに夕食をすすめられたが、車だし家まで一時間なので、「私は家に帰って風呂入ってビール飲みます!」と宣言してそうそうに退散した。

風呂上りのビールが旨かったのは言うまでもない。

その後、HPで作業の進捗状況の記事を読んでいたが、還暦過ぎた佐藤さんとそれより一回りも年上の大野さんが、連日の酷暑の中、さすがに早朝とかに作業時間を移しながらも黙々と作業を進められているその執念に脱帽した。

完成が楽しみである。