2009.7.29
エレルヘインの風
森 紘一

 月曜日(7/27日)の夕方、開演予定(5時)より10分早く、神秘の歌声が豊実の田んぼに響き渡った。指揮を執るティーア・ロイトメさんと46名の少女合唱団が立ち並ぶ特設ステージ周辺は、阿賀野川をまたぐ朱塗りの船戸大橋とむかいの荒山がうっすらとかすむほど雨雲におおわれていた。
 阿賀町役場と阿賀町観光協会のご協力で、ステージにはテントが三はり張られたが、昨夜来の小さな雨粒は開演前まで降りやまなかった。

 秋には里山アート展会場になる田んぼ一帯は、豊実駅から日出谷にむかう磐越西線と津川方面に左へカーブする国道459号線と阿賀野川との三角地帯で、そのコーナー沿いの歩道は格好の観覧席となる。小雨をついて集まった地元や県内外の鈴なりの観客は、畦道に下りた人々を含めると、ざっと120〜130人という大盛況だった。

賢太郎さんの司会進行ではじまった野外コンサートは、気がつくと雨もやんでいた。
可憐なエレルヘインの花柄の入った黒のTシャツと白いパンツ姿の少女たちの笑顔は、伸びざかりの稲の緑にマッチしてそれだけでも絵になった。

彼女たちの洗練されたハーモニーは、時に力強く、時にコミカルに聴く者の心にしみ込む静謐さがあった。幾度か鳥肌の立つ思いがした。お国の豊富なレパートリーから、「さくら」や「紀州の殿さま」といった日本古謡のサービスまで、名指揮者の心配りも嬉しかった。豊実の田んぼに静かに流れたエレルヘインの風は、あっというまだったがさわやかな40分の夢舞台だった。 

歌の国エストニアからの最高のプレゼントに、幸運にも居合わせた観衆の感激と感謝の拍手はしばらく鳴りやまなかった。