2008.08.10
リトアニア紀行3                       

佐藤賢太郎

7月11日、朝早く目が覚めた。ヨーロッパまで移動すると一日が長い。午前中に日本を出発すると、10時間経っても夜にならずまた午前になってしまう。人間の体はすごい、この時差をどうにか調整してくれる。しかしすぐに帰国するようだったら、きっと体調もおかしくなると思う。また人間が高度1万メートルに浮いたりすることも自然の法則に逆らっているのだろう。

さて朝7時私の部屋の窓から見える広場、その目先をトロリーバスや、バスが走っていた。こんなに早くリトアニアの人は仕事に行くのかと思った。
   なぜなら、夜は午後10時になっても暗くならない夏の北欧である。夜遅い生活なら朝起きるのは遅いのだろうと思った。
   
   その乗り物にリトアニア人たちの通勤する様子がよく見えた。日本のラッシュアワーでは黙って電車に詰め込まれているが、ここではそんなに混んでいない。しかし、みんな暗い顔をして乗り物に乗っていた。ロシア時代に働かされている光景を見ているようでもあった。
   じっと見ていると、その方たちと視線が合いそうでためらった。ギリシャとは違うが、ここでも人々の暮らしが感じ取れるところにホテルがあった。

何をするでもない様子の老人が広場にやってきた。広場にはごみを掃除する制服姿の人もやってきた。市との契約会社の社員かもしれない。
   やがて三々五々、通勤客の歩く姿も見られた。彼らは背が高くスタイルはいいが、服装には気をかけていないように見受けられた。断っておきますがこれはまったく私の主観であります。
   
   窓から右側の建物を見ると閉鎖されているのか、建物が壊れてそのままにしてあった。一歩中に入ればきれいな建物ばかり並んでいるわけでない。季節は夏が最高だというが、その季節にこれでは冬はどんなに寒々とした寂寥感に襲われるのだろうか。

8時の朝食まで時間があったので、ホテルの周辺を散歩することにした。日本から履いていった雪駄のようなもので歩いた。
   大きなマーケットのような建物の前で人々は自分で野菜や果物や食べ物その他を持ち込んで売っているようであった。はじめその意味が解らなかった。中には少年も居て、自宅の庭でとれた果物でも持ってきたのだろうか、あり合わせの入れ物に入れて立っていた。

ホテルに帰り写真家の松本さんと朝食をとった。松本さんは一人で外国に出かけて写真を撮り、国内でも積極的に活躍している方である。ここでも、海外で活躍する一人の日本人女性の姿を見たおもいである。11日と12日は公式行事が入っておらず、リトアニア見学の自由時間であった。午前中、松本さんとは別行動にした。

私はユーロと日本円しか持っていないので、食事もできない状態で両替をするしかなかった。そこで両替は何処でするのか、尋ねた。中にはドイツ人が親切に教えてくれたが、そこは銀行で休みであった。雨の中、両替所探しに苦労したが24時間営業の両替所を見つけた。そしてやっと雨傘を買った。こんなことで、午前は終ってしまった。
   
   午後、菊田さんと松本さんと私は、「‘09アート・ビリニュス」という郊外のアート展にタクシーで出かけた。そこは日本で言えば幕張メッセのような広い建物があって、絵画、彫刻、写真その他いろいろな作品を、海外を含めた画廊主が持ち寄り販売しているところだった。入館料を払って入ったが、広くて歩くのも大変である。少し疲れたから一休みすることにした。
   
   男女ペアで菓子を売っている出店があった。そのグラマーなスタイルに一同驚いた。リトアニア人女性は大方胸が豊かでスタイルがいい。それにもまして目鼻たちが良く人目を引いていた。やっとテーブルについて、胸が大きいね、とそんな話をしてお茶を飲んだ。

それはともかく感じたことは、アート展で作品の販売がこうして行なわれていること、そして価格が高いと言うことであった。菊田さんと松本さんは写真が専門であって関心があったようだ。帰りに、リトアニアの巨匠の小さな写真を私もつられて買った。日本でいえば、土門拳のような写真家のようであった。

   帰りは、怪しげなタクシー運転手が待っていたがそれに乗った。ところがえらく早くメーターが回る。車中の話を聞いたせいか、運転手が少しまともにしたようである。英語の話せない私一人ではとても出かけられなかっただろう。

夕刻、オーストリア在住の写真家アンドリューさんと再会し、とても懐かしく思った。レストランは松本さんが見つけたという、少し奥まった静かなところにあった。はじめは、お互いに高いねと言ってためらったが食べてみると美味しい食事であった。松本さんは面目を施したように、やっぱり良かったでしょうと言った。
   野外のパラソルの下で食べていたが、雨が降ってきたので屋内に入った。室内もモダンとかきれいとかではなく、ともかく古い歴史が感じられるレストランであった。こうしてリトアニアでの2日目が終った。