2009.12.

2014.05.15
リタイヤ後の私の生き方
大塚秀夫 

人間が生きていくうえで大切なものは何か。そう問われたら、私は希望だと答えます。希望さえあれば、つらい状況でも歩き続けることができると思うのです。社会がよくなることを望んで、誰かが希望を与えてくれるのを待つのではなく、自分から見つけようとすることが大切なのではないでしょうか。

   フランス語に「スープル」という言葉があるそうです。意味は「しなやか」とか「柔軟な」という意味だそうです。希望は人それぞれでいい。どんなことだって言い、周りから笑われてしまうものであれ、呆れられるようなものだっていい。経済が右肩上がりだったころに多くの人が描いた夢が物質的な豊かさや競争社会の勝者になることでしょう。私は物質的豊かさを追うことや、勝者になることを希望することはほとんどありませんでした。ただ精神的に強くなりたい。どんな時でも家族を守れる強さを得たい、ただそれだけでした。

   挫折したら自分を鍛えるチャンスだと受け入れ、いつの間にか乗り越えるたびに自分がたくましくなってきていることに快感さえ生まれました。

私は佐藤賢太郎さんからラグビーを一緒にやらないかと大学4年の時に声をかけられ、高校教師としての道を選択しました。そして、38年間の勤務を終えて、今年の3月31日で定年退職いたしました。リタイヤ後は自然のリズムに合わせて過ごす時間を作りたいと希望しました。そして、体験したことがない農業をこの自然のリズムとして、生活することを希望しました。

このたび、豊実で農業研修を受講しました。
畑を耕運機で耕して、カボチャ・サトイモ・しょうがを植えました。62歳になって初体験です。当然、田植えもしました。田圃を平らにするために代掻きをするのです。水が少ないと、低い所はえぐれて水が溜まり、高い所に土が溜まります。 低い所は、高い所の土を動かし平らにしていきます。田植えまで水をしっかり入れて、凸凹を見えないようにします。

  水を入れていると、土が自然に動いて、なれてくれます。水が少ないと、土が動かないです。
 これを代掻きです。 いよいよ、田植えの準備ができました。わずかな時間で田植えが終わりました。機械で田植えができないところを手で苗を植えました。一つ一つ植えていくとき二宮尊徳のことを思いました。荒地を耕して田植え後の田に捨てられている余った稲を集めて植えて、米を収穫した。本を読んでこのことは頭では理解していましたが、田植えを体験して初めて先人の苦労があって自分が今あることを瞬時に悟ることができました。 

自然によってこの地上は展開されていくのだ。自然と無関係に人の精神はない。自然に帰り自然に合体し自然の他に何物もなくなる。人間が自然に全身心を打ちまかせて自然そのものとなって生きることによって、人は自然に帰っていく。そのとき体の中から気がみなぎっていくことを体験しました。農業体験は初めてなことである。すべて無知なるが故に新鮮であります。刻々の生が新鮮で、驚きがある。

かつて、私はラグビーが生きがいでした。自分のすべてでした。私が描いた夢。ラグビーに対して絶対にこうなるとか、そのためにはこうでなくてはならないとか、ラグビーが強くならなければとか、決めつけて指導していました。ラグビーがなくなったら自分は生きがいが失われるぐらいに愛していました。それまで好きだったラグビーで部員が集まらず平成8年に廃部になったとき、逆に頭もガチガチにこうあらねばならないという気持ちから、気楽に構えられるようになった気がします。ラグビー以上に興味を引かれるものを見つけたなら、それに舵を切っていく。

自分が望んだと通りの人生を送れる人などごくごく一握りにすぎません。自分の願望を成就することが人生の幸福だとするならば、ほとんどの人が不幸な人生だったで終わるでしょう。大切なのは夢の中身でもそれを達成するかでもなく、自分なりの夢を持つことで未来への意志をかき立てること。そして、その夢に向かって昨日より今日、今日より明日、少しでも自己の水準をあげようと人生を歩んでいくことではないでしょうか。希望とか夢とは未来を見据えて人生を生き続ける中で、ふと心にともるものそんな気がするのです。何もせず、ただぼんやりと、棚から牡丹餅のように希望がおちてくるわけでもありません。まず自分から働きかけがあり、どんなことでも心にわくことをまず行動してみる。この姿勢こそ大切ではないでしょうか。それを忘れなければ希望は無数にあります。

私は心にふつふつとわいてくることが未体験なことや新しいこと難しいことでもチャレンジしていくこと自分が好きになってきました。それが成就するか否かについてもスープルしなやかに柔軟でありたい。希望が消えても不運を嘆くのでなく心を切り替えその変わった状況に応じて新たな目的を見つけて、歩み出せばいい。そうして常に希望を胸に抱き続け歩む人は幸福である。こうでなければ幸福でないという思い込みも捨て、自分を不幸だとも決めつけず、身のまわりにある小さな幸せに目を向けて、挫折も幸福になるための条件と考え、これまで、自分を縛っていた価値観を見直す機会ととらえこれからもスープルしなやかに柔軟に生きることに希望を持って、退職という自分の置かれた今を生ききることを目指していきたい。