2010.02.20
作品《分解した顔》にふれて
大塚秀夫

『分解した顔』という佐藤さんにしてはめずらしい作風だ。

「金の亡者がそういう顔をしているのでしょう。それが分解した顔でしょうか。」とトークショウのときの佐藤さんの話が印象に残った。
   トークショウのとき、作品をゆっくり鑑賞できなかった私は、あらためて会場に妻と訪れ、ゆっくりと《分解した顔》を眺めた。となりの女房殿の顔を横眼で見た。
   以前、ボーナスが減額されて悲嘆にくれた私は女房に言った。すると、まったく落胆することもなく、「もらい過ぎいすぎだったからいいじゃない。」と言う。金銭欲がない女房は、分解した顔にはなっていないのが、私には、何よりの救いだった。

欲のつっぱった顔。2008年リーマン・ショックから端を発した金融危機だ。すべてを投機マネーの対象に変えたサブプライムローン問題。投機マネーが織り成した金融バブルだ。破綻の黒幕は投機マネーの在り方こそ問題だ。きっとそのような人たちをイメージしたのかな。
 創造的な作家は、その時の社会を反映して、作品として自由に表現する。そこが見る者にはおもしろい。

私は作品《分解した顔》を見てピカソを想起した。それはピカソの大作《ゲルニカ》である。空爆部隊は3時間半にわたって爆撃、そのあげくゲルニカの町を完全に壊滅させた。ゲルニカの町は軍事的には何ら重要性はない。まったくのテロ行為の破壊行為であったという。ゲルニカは大量殺戮戦争のシンボルとなった。こうした事件に触発されたピカソは20世紀で最も有名な作品《ゲルニカ》を制作した。

大作の《ゲルニカ》には、首をねじ曲げ、苦しそうに大きく口を開いている馬が描かれている。また、両手に死んだ子供を抱いて泣き叫んでいる母親もいる。悲鳴を上げながら両腕を激しく突き上げる人まさに戦争の悲惨さや悲しみや怒りがまとめられている。

ゲルニカに登場する人物や動物はすべて犠牲者である。戦争による破壊がいかなるものかを表現しつくしている。

  分解した顔の人たちは、未来をどんなふうに描いているのだろうか?

今あるものを活かしながら、人との出会いを大切に、まっすぐに貫く生き方の佐藤さんの作品から学んだ石彫展であった。壮大な夢を見ている人の顔は、いきいきと輝いているに違いない。