2015.04.07
「母」を読んで
森 紘一 

淡々と「母」を語る佐藤さんの文章を読みながら、しばしわたしも、感慨にふけってしまった。 

お母さんの、いつも変わらない笑顔と「ご苦労さまです」の温かい一言は、我われにとって、ありがたい励ましである。

餅つきを始めた我われを見かねて、腰の据わった見事な手つきで杵を振り上げ、お手本を見せてくれたことがある。あれはまだ、ひざの手術後で杖を手放せなかった頃のことであったと思う。一瞬、照れたような破顔一笑も忘れがたい。 

それにしても、分け隔てなく誰をも迎え入れてくれる大きな愛は、一体どこから来るのだろう。もって生まれたお人柄だろうか、豊実や会津の土地柄も影響しているのだろうか。最近は、「ありがとう」をよく口にすると佐藤さんもいうが、感謝の言葉も自然体である。打算のない‘無我’の心境なのだろうと、わたしはおもう。 

日々の暮らしの中で、損得や勝ち負け、好き嫌いに追われる我々は、何か大事なことやものを忘れているのかもしれない。すべて数字で判断する西洋風効率主義の判断が、いつの間にか身についてしまったのかもしれない。ふと、そんな反省がよぎる。 

一方、自然災害や予期せぬ事故にボランティア活動や無償の奉仕で汗を流す人々が、国内外を問わずふえていることは、ある意味で地球丸のバランスが保たれている証と言えないだろうか。いわゆるグローバル・スタンダードは、政治や経済を超えた次世代の平穏のための国際的な価値基準であってほしいものである。 

今や日本は、中央も地方も「地方創生」で沸いているが、地方が元気になれば、都会も元気になるという保障はない。むしろ大事なことは、都市と地方の格差や日本の成長戦略といった問題ではなく、一人ひとりの生き方の問題として、どっしりと落ち着いて、“ローカルに生きる”ことを本気でやるべき時だとおもう。 

 「アートのある暮らし」を軸に、都市との交流を標榜し、個人と地域の活性化を願う我われの活動は、NPO法人コスモ夢舞台となって6年目を迎える。幸いなことに、佐藤さんのご両親が守ってくれた土地があることで、我われも毎年ベースキャンプを張ることが許されている。仲間とともに、改めて心から感謝を申し上げたい。