「アートの力」を信じて〜「里山アート展」に想う〜

山 形 洋 一(喜多方市美術館長)

 石の彫刻家・佐藤賢太郎さんが、故郷の新潟県豊実にUターンして始めた里山アート展は、今回で8回目を迎えた。

里山を舞台にしたアートの展覧会は、里山の重要性が見直されてきたこともあって、近ごろ全国的にずいぶん増えてきたように思うが、そこに住んでいる人が主体的にかかわり継続されているケースはそれほど多くはない。

 故郷の田んぼを舞台にした佐藤さんの「里山アート展」は、新潟県の豊実という土地に特別な愛着を持つ作家ならではの挑戦であり、「アートで何ができるか」を命題に掲げての仕掛けである。

 この「里山アート展」の特徴は、プロ、アマを問わず誰でも自由に作品をつくってアートを楽しめるところにある。会場の田んぼには石や木の彫刻のほか、廃材を利用したものや初めてアートに挑戦した人の作品があり、道路にかかる橋の下には、河川敷の土を額縁状に正方形に掘り起こし、中に生えている草をそのま

ま絵画様にあしらったものもある。道路の下なので気がつきにくいが、誰でも参加できることを象徴しているような作品だ。

 田んぼの少し奥まったところには墓地があり、後ろの高見の森の陰には送電線の鉄塔があって、その先端がワンポイントのように青空に赤く映えている。小川にはメダカが遊び、ホタルの幼虫の餌になるカワニナがいる。これらを借景として、あるいはそれらに溶け込むように置かれた作品は、見る場所や方向によってさまざまな表情を見せ、現代アートで言うところのインスタレーション作品となっている。

 この春の東日本大震災や原子力発電所の事故によって、私たちは好むと好まざるとを問わず価値観の変換を余儀なくされたし、物事の本質を見極めることの大切さも教えられた。このことはアートの分野でもしかりである。

 今回の「里山アート」のテーマは循環、再生、創造であるという。これは自然界の摂理、法則であり、本来は人間社会の鉄則でもあったはずなのに、私たちはいつの間にかこのことを忘れていた。

小学生が1人しかいないという高齢化と過疎化が進んだ豊実での「里山アート展」、継続して開催し続けることのご苦労は並大抵のことではないはずなのに、佐藤さんのお仲間をはじめ、地元の人など多くの人の参加を得て回を重ねてきた。アートを地域に根付かせようとするこれまでの取り組みは、取りも直さず、自然界の法則や人間社会の鉄則を取り戻すことの活動にほかならない。「アートで何ができるか」、その向かうところはここにあるような気がするし、それができるのがアートであり、「アートの力」であり、「里山アート展」だと信じている。