2008916
コスモ夢舞台滞在記5
鈴木隆雄

体験学習を受け入れて

  月の里山に吹く風は秋の透き通った風に変わっていた。黄金色に実った稲穂は陽の光りに照り輝きさざ波のように風になびいていた。藤野さんに手伝って植えた古代米(黒米)も穂がたれて刈り入れ時を待っていた。あれから3ヶ月が経ち、私にとって2回目の農家体験学習受け入れ担当のために阿賀町豊実を訪れた。

 10日午後5時頃、佐藤マキ子夫人が中学2年生の男子生徒4名を引率してきた。関東の中学校から農家体験学習のため佐藤家を訪れた生徒である。部屋を案内、荷物の整理、自己紹介を矢継ぎ早に済ませ、入浴に向かった。入浴場は母屋から2キロほど山を上った石彫家でもある佐藤賢太郎氏の工房のそばに建てた手造りの檜風呂である。早速分担して風呂の掃除や風呂焚き、自分たちの衣類の洗濯をしてもらった。旅の疲れも見せずテキパキと行動している姿に感心した。
一息ついたところで少し遅い夕食となった。体験学習の生徒にはいつも食膳感謝の言葉を説明し、唱和してから食事をいただくことにしている。「天地一切の恵みとこれを作られた人々のご苦労を感謝していただきます。」お米は地元産のコシヒカリ、(かまど)で薪を燃やして炊いたご飯をちらし寿司にしていただいた。
3日間の体験メニューは、食生活、薪運び、薪割り、風呂焚き、掃除等生活に密着した体験をしていただく
ことにしている。

2日目、朝6時起床、前日の疲れも見せず6時前に起きて待機していた。良く寝られたかと聞いたらあまり寝られなかったとのことだった。朝食前の一仕事、(かまど)に火をおこしご飯炊きの見学、火おこしに使う杉の葉を拾い集めるために「桃源の小道」で作業を行った。例に習って食膳感謝の言葉を唱和しておいしい朝食をいただいた。午前中の仕事は薪運びだ。阿賀野川河畔の大沢畑(おさばた)というところの景観づくりのために伐採した木を焚き木用として使うためである。2人1組になって40~50センチに切ってある丸太を、斜面を転がし道路の運搬車に積み込む作業で、これは体力勝負のきつい労作体験となった。子どもたちは文句も言わず頑張った。良く頑張ったと思った。昼食は「滔滔亭」という茶屋風の建物でいただいた。そこには、竃やパン焼き釜、囲炉裏があり、窓からは山あいを悠然と流れる阿賀野川を見ることが出来る。炭火で焼いた秋刀魚と鯨汁、黒米の混ざったご飯と、ここでしか味わえない食事をいただくことができた。

午後、運んだ薪や前から積んであった薪をチェンソウで切り、(まさかり)を使っての薪割り作業をしてもらった。チェンソウの使い方も、鉞の使い方も初めての体験とのことであったがしっかり取り組んでいた。先生方が子どもたちの様子を見にきてくれ、先生にも薪割り体験をしていただいた。子どもたちのはやす声が心地よかった。今日一日の労作体験が終わって、疲れた体を檜風呂つかり、汗を流してもらい夕食についた。子どもたちの好きなカレーライスだ。

 3日目、夜半から降っていた雨も上がり青空が顔をのぞかせている。6時起床であったが起きてこなかった。昨日の疲れがこたえた様子なので30分遅らせた。今日子どもたちは12時に阿賀町を発ち岐路に着く。朝食前、昨日割った薪を工房のある場所から母屋に運んでから、朝食をいただいた。10時までに今日の体験作業を終わらせるため、佐藤賢太郎氏の彫刻作品を展示してある「ふくろう会館&アートギャラリー」の掃除をすることにしていた。作品にハタキをかけてほこりを払う者、掃除機をかける者、雑巾がけをする者、トイレ掃除をする者とそれぞれ分担して行った。掃除が終わって少し時間があったので、散歩がてら廃校跡の校庭や、馬取という佐藤家から車で15分くらい山を上った所に清水を汲みに行った。

 3日間佐藤家の農家体験学習に参加した4名の生徒たち、班長としてリーダーシップを発揮する者、良く気がつき素早く行動する者、慎重に見て行動する者、それぞれが自分の持っている良いところを出して頑張っていたように見えた。短い時間ではあったが、日本の原風景でもある里山の民家での生活体験を通して、大切にしていかなければならないものを発見していただけたら幸いと思った。

佐藤マキ子夫人から子どもたちへ、この体験を通して一言で表現すとの問に、「友」「共力」「自然」「苦労」の答えが返ってきた。マキ子夫人は、子どもたちのためにお土産を用意してくださった。地元産のコシヒカリ米と古代米(黒米)を持たせて、集合場所へと送って行った。